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天守閣の小夜姫つづき
投稿者:
龍3
投稿日:2003年 7月23日(水)14時42分40秒
第七話 卑劣な罠
その一
御守殿を襲った三人の刺客は、裏口の番士二人を縛り上げて侵入していた。三人とも傷ついて逃げ、行方はわからない。
由紀之丞が沙世姫を守って戦っていたとき、御殿では関根佳太夫が美香の方と、側近を通じて激しいやりとりをしていたらしい。沙世姫が体調を損ねたと偽りの知らせを流したことを詰問し、「ご対面」の実施に全力を挙げていたのである。
そこへ、御守殿襲撃の知らせが届いたが、佳太夫は強権を発動して御守殿を自分の配下で固め、事件を外に漏らさないようにした。同時に「ご対面」を、夕方にずらして実施することを、美香の方に認めさせたのであった。
そういった経過を、由紀之丞は主君・上総介のもとに戻ったときに聞かされた。左肩の傷は驚くほど痛みがなくなっていて、上総介にも同僚の小姓たちにも知らさずに済ますことが出来た。昼食、午後の政務の補佐など、上総介に付いて小姓としての仕事に忙殺されるうち、日は傾き、沙世姫と上総介、松次郎との「ご対面」の時間が近づいた。
場所は御殿の黒書院が選ばれた。三崎家の私的な面会や宴会に使われる、御殿の中でもやや奥まった一室である。時刻は夕七つ時(午後四時)。まだ夕闇には遠かったが、黒書院には蝋燭が点り襖の梅の花の絵を豪華に照らしている。
床の間のある、上段の間に、藩主の上総介と世子(せいし=跡継ぎ)松次郎が座し、その両脇後ろに小姓が居並ぶ。由紀之丞は上総介のすぐ脇に着座していた。上段の間の前にある、一段低い下段の間には、侍女たちを従えて美香の方が、上総介父子とは直角をなして襖を背に居並んでいる。正室でないために上段の間には上れないのである。内心は憤懣を秘めているに違いないが、美香の方の美貌は見事なほど平静であった。
その反対側には、藩の重臣たちが控えている。国家老筆頭・関根佳太夫、国家老次席・恩田陸奥、勘定奉行・設楽門左衛門、目付け兼沙世姫お世話役・吉田監物など、全部で十人にも満たない中、末席に江戸藩邸詰めの用人・加藤彦三郎がいるのが異例だった。まだ三十歳にもならない若輩で格も低いが、美香の方の強い意向でこの場に列せられたようだ。
由紀之丞は、父の佳太夫と、加藤の横顔を見比べていた。上段の間と下段の間を隔てる襖が取り払われているものの、締め切った室内で、三十人近い人間が黙りこくっているのは息苦しいばかりである。
「沙世姫様がおなりでござります」
奥の用事を勤める坊主の声が響き、入り口の襖が開かれる。ほっと息が漏れ、期待に満ちた視線が集中した。
白地に蘇芳の花や草、裾に源氏車の文様を縫い取りした打掛を艶やかに引き、湯上りの輝かしい肌に、豊かな黒髪を結い上げた沙世姫は、しっかりとした足取りで下段の間に踏み込み、臆することなく部屋の中央に着座すると、手を畳に突いて礼をした。
上総介が、おお、と嘆声をあげる。
「待ちかねたぞ、沙世姫。聞きしに勝る匂やかなる姫じゃな」
その横で、松次郎がまだ子供っぽい瞳を見開き、ごくりと唾を飲み込んでいる。誰もが沙世姫の美しさと優雅な立ち居振る舞いに見惚れているようだ。ただ、美香の方と加藤を除いては。
そして、由紀之丞は、思いもかけない心の痛みを覚えていた。沙世姫は、五歳年下の三崎松次郎の正室となるためにやってきた。そのことが、突然由紀之丞にはたまらなく辛いことに思えてきたのである。
−−−−−
>Bachさん
「沙世姫より、由紀之丞が佐用姫のような」・・・ぎくう!!(@@)
あとがきにかえて
投稿者:
Daisy
投稿日:2003年 7月20日(日)07時55分59秒
龍3さん、miyamoさん、それにBachさんご声援ありがとうございます。
「ラスト・シュート!」の掲載を終えました。
ストレートにスポーツの1シーンを切り取ったものを書いてみようと思ったのがこの
作品の動機ですが、趣向を凝らした作品が多い中、「ちょっともの足りないな」と思
われた向きもあるでしょうか。
●この作品について
元々この作品は、文芸部の「エンディングコンテスト」という幻の企画のために構想
されたストーリーです。あのラストシーンに続くエンディングを募集しようという訳
です。
諸事情により企画自体が流れたため、次にエアジンさんの掲示板「サヨコへの伝言」
の閉鎖をうけての感謝作品として準備していましたがそれも叶わずで・・・。
(「3年間の思いのたけすべて…」という文章にその名残があります(笑))
●バスケットボールを描く
スポーツはやるのと見るのとは大違いなのと同様、知っていることと描くことは違い
ます。
私がこの作品を書くにあたって、バスケの戦術などを調べようとしたのですが、本屋
にもネット上にもたいした情報はありません。一般的なイメージとちがい、日本では
バスケはまだまだマイナースポーツなんだなという印象です。
そこで私はバスケそのものをリアルに描くことは断念して、みなさんがバスケからイ
メージするであろうものを描くことを狙いとしました。
ここではバスケのイメージを「スピード&リズム」であるとし、冒頭では擬音でそれ
を提示して印象づけておいて、つづいて文章そのものでも「スピード&リズム」を表
現しようとしました。
具体的には、文章は短く、歯切れ良くを第一とします。
極力切りつめた表現をたたみかけるようにしたほうが、バスケのリズム感にあうと思
うので。
普段から私の文章は短いのですが、今回はそれに輪をかけて短くなっているはずです。
(重厚で格調高い文章ではバスケの軽快さを出すのは難しいと思いませんか?
もっとも、私には龍3さんのようにすばらしい文章を書けるわけもないのですが)
ですから、バスケの専門的な知識を用いずとも、文章そのものからバスケの臨場感を
感じてもらえたなら、まずこの試みは成功と言えるでしょう。
Daisy こと まつしん
「ラスト・シュート」完結 お疲れ様です。
投稿者:
Bach
投稿日:2003年 7月21日(月)16時08分27秒
>Daisy様
>「サヨコよ。私たちにはサヨコがついている。絶対負けるわけがないわ!」
どこぞの軍師か、教祖様のようなセリフ、まぁはきっと政治家の素質があるに違いない。わぁ怒らないでまつしん様!
玲には玲の思いがあったように、まぁにはまぁの思いがあっての行動だったのですね。(一瞬ブラック化(笑)するのかと思いましたが)
>まるでこのフィールドのどこかに6番目のメンバーがいて、全員にサインを送っているみたいだ
サヨコをデウス・エクス・マキナ的な使い方をして、西浜中に勝たせてしまうのかと思いましたが、考えてみれば、その前の玲の「…サヨコをそんな風に使うなんて…」という独白から考えてもそれはあり得ませんでした。
果たしてゲームの行方は?ってとこで余韻を残して終わるのもまたよいです。
>龍3様
多分ネタバレにはならないと思いますが。
何か、沙世姫より、由紀之丞が佐用姫のような・・・。
編集済
ラストシュートの行方やいかに
投稿者:
miyamo
投稿日:2003年 7月19日(土)05時51分36秒
>Daisy様
完結おめでとうございます。バスケの試合の中で、玲やまぁの思いが揺れ動く様や、細やかな試合の描写、見事でした。放たれたラストシュートはゴールに吸い込まれたのでしょうか。読後も強く余韻の残るそんな作品だと思いました。また、次回作があれば別の作品も読んでみたいと思います。連載、お疲れ様でした。
>龍3様
沙世姫は尋常ならざる子、それ故のつらい過去。そこにあの和歌を読み解くヒントもありそうですね。由紀之丞に漏らした本当の気持ち。これが今後、由紀之丞の心境にどのような影響を与えていくのか、今後がますます楽しみになってきました。
天守閣の小夜姫つづき
投稿者:
龍3
投稿日:2003年 7月19日(土)00時04分49秒
第六話 沙世姫の秘密
その五
「わたくしは、尋常の子ではなかったのです。そもそも、わたくしの母上は、武家の生まれではありませんでした。京都の公家に、月御門(つきみかど)家という、陰陽師の家柄があります。天文・暦法をつかさどり、穢れを祓い、かつては式神を使役して敵を呪殺までしたという言い伝えを持ちます。代々の血筋には、妖異な力を持つ者がしばしば出たとのこと。母上はその月御門家の裔(すえ)でした。そのせいか、わたくしは・・・常ならざる力を持って生まれたのです。
生後半年ごろから、わたくしの周りで不審な小火(ぼや)が続いたそうです。部屋の障子や衝立、おもちゃの犬張子などが燃えるのに、わたくし自身は小さなやけどすら負わない。わたくしが二歳になった頃、不思議に思った乳母たちが、四六時中交代でわたくしを見張るうち、わたくしが癇癪を起こしたとき、何の火種もないのに、手に持っていた紙人形に火が点いたのでした。
わたくしは、念ずるだけで、火をともすことができるのです。それを知った回りのものは恐怖し、父上は、わたくしを遠ざけました。母上が家から追放されたのもまもなくでした。けれどそのおり母上は、わたくしが津村家に残してもらえるようにと乞い願い、わたくしの力を封じたといいます。
ですから、物心ついたとき、わたくしは自分の力を知りませんでした。父上は正月や節句などに挨拶をする程度で、身の回りに居るのは由利江ひとりでしたが、そういうものだと思っていました。けれど、成長するにつれ、あまりに寂しい境遇だと知っていきます。やがて、わたくしは十二歳になりました。
突然、父上がわたくしを呼び、縁談がととのったと言われました。お相手は、とても御大身(ごたいしん=おおきいこと)の大名家で、津村家の名誉のため、わたくしの美貌が役に立ったと上機嫌でした。
わたくしは、ただ、顔立ちが整っていたために、津村家に飼われていたのです。父上にとっては、高く買ってくれる嫁入り先を待つだけの、生き人形だったのです。
・・・わたくしは、怒りました。婚礼の前夜、津村家の別れの宴で、偽りの祝いの言葉を聞かされるうち、わたくしは、知らず知らずに、封じられていた力を解き放ったのです。津村家の江戸下屋敷は、半分ほど燃え落ちました。
以来わたくしは、どんな手段を使っても津村家から放逐しなければならない、魔性の子となりました。どうすれば、穏便に家を出てくれるのか、と父上は家臣を介して私に聞きました。大切に扱ってくれる家に多額の持参金をつけて出してくださいと、わたくしは難題を吹きかけました。
その話に乗ってきたのが、そなたの父上、関根佳太夫どのです。国家老の身で、ご自身密かに江戸のわたくしのもとまでやってこられました。わたくしは、すべてを明かして、それでよいのかと訊ねました。佳太夫どのは、正直に言われました。姫のもたらす持参金で三崎家西浜藩は救われる、何もかも承知して、姫を待ちますと」
沙世姫の話に、由紀之丞は絶句して、目を見張るだけだった。不思議なことに、忙しく立ち働く護衛の武士たち、奥女中たちの誰一人として、沙世姫の声は耳に入っていなかったらしい。そこだけが、時間も止まったように、沙世姫と由紀之丞は向かい合って座り、ただ見つめあっていた。
−−−−−
>Daisyさん
「ラスト・シュート」完結おめでとうございます。
3年の思いのたけをすべてこめたシュートの行方・・・美しい終わり方でした。六番目の小夜子における、女子バスケ部のその後の軌跡を、見事に描いてくださいましたね。爽やかな感動を味わわせていただきました。ありがとう。
編集済
ラスト・シュート!(第5回)
投稿者:
Daisy
投稿日:2003年 7月18日(金)23時21分0秒
5.ラスト・シュート
最終ピリオドを前にして、西浜中ベンチのムードは盛り上がっていた。
「追いつくことはできなかったけど、流れはこっちにある。必ず逆転して勝つよ!」
雅子の確信のこもった言葉に、西浜中チームは誰もが自分たちの勝利を疑わなかった。
雅子の言うとおり、先の第3ピリオドの後半、西浜中は圧倒的な攻勢をかけ、試合の主導権をもぎとった。
おしくも時間切れにより、その猛反撃も一歩及ばず滝川中が僅差でリードを守った形になってはいる。だが、このままのペースでいけばすぐに試合はひっくり返る、それは誰の目にも確実だと思われた。
・・・
しかし、おおかたの予想に反して第4ピリオドは激戦になっている。
滝川中もいつまでも相手に翻弄されてはいない。ゾーンディフェンスに切り替えて、相手の新戦術に対応した。
ここにきて玲や雅子の動きは落ちており、二人の動きはゾーンでも捕まえられると踏んでいたこともある。
たしかに、各人の動きは目に見えて鈍っている。
ことに、玲は客席に飛び込んだときに傷めたらしい左足がいよいよ重くなってきていることを感じていた。
その他西浜中メンバーもいつになく疲労している。ここまでいつもと違う動きをしながら戦ってきたことが大きな負担になっていたのだ。
その疲れから強引なプレイが目立つようになってきている。
あちこちで選手の身体が接触し、もつれるように転がった。
敵味方を問わず、誰もが身体のどこかしらを傷めていた。
試合はボクシングでいうところの「ノーガードの殴り合い」の様相になっている。
・・・
もうほとんど試合時間は残っていなかった。
あとワンプレイあるだろうか。
点差は2点。
(まぁ、お願い!)
玲はゴール下に突進する雅子にパスを送った。
受けた雅子はいったんは前方に向き直ったが、そのまま頭越しに玲にバックパスを投げ返してきた。
『玲、決めて!』
3ポイントシュートを狙える位置の玲に逆転の一投が託された。
その一瞬、玲にはバックパスをよこす雅子の後ろ姿がかつての津村沙世子にダブってみえた。
そう、これはかつて沙世子と心を通わしたバックパスと同じ・・・。
(まぁ、わかっているよ。まぁだってあんな風にサヨコを使いたくはなかったんだよね。
でもあれが一番だったんだ、チームを救うためだけでなく、不調だったあたしを立ち直らすためには。
サヨコに目をむけるさせることで、徹底マークを前にしてエースの重圧に自滅寸前だったあたしを救ったんだ)
試合の最後に玲は雅子と心底通じあえたことを実感する。
滝川中はこの土壇場になって初めて見せる西浜中のコンビネーションにとまどい、ディフェンスに一瞬の隙を生むことになった。
シュートチャンス!
瞬間。
−チリィーンン
あの鈴の音がまたきこえた。
そのとき、景色が変わる。
いや、時間の感覚が変わったのだ。
まるでスローモーションになったかのような動作でディフェンダーが必死になって迫ってくるのが見える。
(まわりの状況がよく見えている)
集中力が極限にまで高まっているのがわかった。
自分の息遣い、心臓の鼓動、筋肉のきしむ音までも聞こえてくるようだ。
玲は渾身の力を込め、3年間の思いのたけすべてを乗せて3ポイントシュートを放つ。
そこにいるすべての視線がそのボールの行方に集中した。
鈴の余韻がまだのこる中、そのボールは・・・。
それぞれの想いを乗せたボールはゆっくりと回転しながらゴールを目指して軌跡を描く・・・。
(ラスト・シュート!〜おわり)
天守閣の小夜姫つづき
投稿者:
龍3
投稿日:2003年 7月18日(金)12時06分31秒
第六話 沙世姫の秘密
その四
傷口に焼酎を注ぎ、金創薬(きんそうやく=刀傷、切り傷の外用薬)を塗って白布をまきつけ、由紀之丞の治療が済んだ頃には、御守殿は騒然としていた。
警護の武士がおびただしく詰めかけ、奥女中が沙世姫の化粧道具や入浴の支度を持参して、右往左往している。由利江と万阿が、奥女中たちの指図に懸命となった。男たちは刺客の残した刀や血痕の処理、壊された襖の取替えにかかっている。
そのため、ざわめきの中心に居ながら、沙世姫と由紀之丞の周りは、奇妙にも静かな雰囲気が流れていた。
「由紀之丞は、強いのですね。その若さで、歴戦の勇士のような戦いぶり」
沙世姫が賞賛のまなざしを向けてくるのに、由紀之丞は赤面する。
「とんでもござりませぬ。敵に侮られぬために虚勢を張り、ただ夢中でした」
「虚勢、だったのですか・・・わたくしも、ずっと自分を偽って生きてきました・・・」
不意に、沙世姫の表情が変化した。それまで毅然と内側から支えていた力が崩れ、少女のはかなさが滲み出す。
「沙世姫様?」
「わたくしは・・・なんのためにここにいるのでしょう?津村の家に疎まれ、やってきた三崎家には、わたくしを殺そうとまで憎む者がいる。わたくしは、それほど厭わしい女なのでしょうか?」
つぶやく沙世姫の唇は震え、肩を落としたその姿は、あまりに痛々しく見えて、思わず由紀之丞は抱きしめたくなった。かろうじて堪えて、沙世姫に向き直る。
「なにをおっしゃいますか!沙世姫様は、私が会った誰よりも高貴で気高く美しいお方だ。わが命に代えてお守りいたします」
「秋太郎も、由紀之丞も、どうしてわたくしのために?そなたたちの父が、わたくしの輿入れを進めたからですか?」
「違いまする!私は・・・私は・・・父上に捨てられました。関根家から出されました。父上のためにではありませぬ」
思いもかけぬ言葉が口をついて出て、驚きに由紀之丞は絶句した。沙世姫は顔を上げ、その目は喜びに輝いている。
「そなたも、そうなのですか!・・・わたくしも、父上に嫌われて・・・母上は早くに家を出られて・・・わたくしは、親の温かさを知らずに育ちました」
由紀之丞は不思議な感動のようなものを覚えつつ、つぶやく。
「私も同じです。母上は私を生んでほどなく実家に戻ったそうです。今もご存命らしいけれど、どこにおわすのか、父上は教えてもくれなかった」
独り言のようなものを言っていることに気づき、由紀之丞は恥ずかしくなって、話題を換えた。
「無礼とは存じますが、お聞きしてよろしいでしょうか?沙世姫様のような非の打ち所のない姫君を、どうしてお父上様はいとおしまれなかったのですか?」
沙世姫は、煙るような目元をした。自嘲の笑みが浮かんだ。由紀之丞は、ぶしつけな自分の言葉を後悔したが、沙世姫は静かに話し始めた。
−−−−−
>miyamoさん
和歌の意味は、もう少ししたら解説しますのでしばしお待ちを(^^)
編集済
ラスト・シュート!(第4回)
投稿者:
Daisy
投稿日:2003年 7月18日(金)01時10分6秒
4.6番目のメンバー
西浜中の反撃はこのように始まった。
そのとき、玲は相手がシュートを外したボールを拾いはしたが、あいかわらずまとわりついてくるマークに手を焼いていた。
すると唐突に。
−チリン
一瞬、例の鈴の音がしたような気がした。そして、
『玲!』
呼ばれたような気がして振り向くと、そこに沙世子の姿があった。
(ノーマーク!)
彼女の絶好のポジショニングになんの疑問を感じるまでもなく反射的にパスを投げた。
しかし同時に。
(あっ、しまった!)
誰もいない。
沙世子のいたはずの空間には誰もいなかった。
そのぽっかり空いたスペースにボールを投げ込んでしまった。
・・・が。
ボールがワンバウンドすると、いつのまにか飛び込んできた雅子が拾って、勢いもそのまにシュート。
雅子の見事なフォローであり、あざやかな速攻だった。
あやうく大きなミスを犯すところを救われて玲は胸をなで下ろした。
「まぁ、ナイッシューッ」
そう声をかけた玲に、雅子は自分の耳を指す仕草で応えた。
「聞こえたから」
「?」
玲には雅子が何のことを言っているのかわからなかった。
その意味については、次のプレイで玲は身をもって理解することになる。
今度は雅子がボールを拾った。
マイボールになったことを確認した玲がいつものようにマークをはずす動きに出ようとした時だった。
『玲!』
また、さっきと同じ声が聞こえた。
その声につよく引かれるように左後方に跳び、そのままよろめくように走った。
玲が右へ動くと予想していた滝川中のマーカーは裏をかかれる形となっている。
玲は相手の虚をつくように空いたスペースに走りこんでいた。
すると、そこにドンピシャのタイミングで雅子からのボールが飛んできた。
まるであらかじめそこで待ち合わせたかのようなボールを受けると、そのままシュート!
「玲、ナイス」
雅子の声に、玲は先ほどの雅子のしぐさを真似て応えた。
「聞こえたよ、あたしにも」
この一連のプレイを見て、西浜中のメンバーは二人が何をやろうとしているのか正確に理解した。
西浜ボールになると、各メンバーはマンマークをはずそうとするのではなく、貼り付くようなマーカーを引き連れて、スペースを作るような動きをした。そうして空いたスペースにボールが飛ぶと、いつのまにかマークをはずした誰かがすでに飛び出していて、ボールを受け取り速攻につなげる。
その連携プレイを通じて、玲も雅子も、いやチームの全員がこれまでにない一体感を感じていた。
−わかる。
いま、他のみんながどこでなにををしているか。
どこに誰がいて、なにをしようとしているのか。
全部、わかる。わかるよ。
滝川中は、これまで見せたことのない西浜中の攻撃オプションにとまどった。
そしてそれは自らの攻撃のリズムをも狂わせる。
点差はじりじりとしかし確実に詰まっていた。
滝川中は明らかに動揺していた。
西浜中のみせる新しいフォーメーションなどはにわか仕込みでできるものではない。
どこにスペースを作るのか、誰がどのタイミングで飛び出すのか、そしていつボールを出すのか・・・それらがことごとく一致しなければ、この戦術は成功しないはずだ。
いくつかは失敗してルーズボールになってしまったが、それでも有効に機能して西浜中優位の流れをつくっていた。
滝川中チームの知識にない西浜中の動きにとまどい、対応が混乱していたこともやすやすと相手をペースにのせる有力な要因となってはいた。
しかし、それだけでは納得しきれないものがある。
(どこにスペースをつくり誰が飛び込むのか − そもそも誰が指示を出している?)
滝川中は西浜中の動きをまったく読むことができない。
彼女たちは相手の見事に調和した動きを前にして、次第にこのように思うようになっていた。
(まるでこのフィールドのどこかに6番目のメンバーがいて、全員にサインを送っているみたいだ)
(つづく)
天守閣の小夜姫つづき
投稿者:
龍3
投稿日:2003年 7月17日(木)15時01分5秒
第六話 沙世姫の秘密
その三
うめき声を上げて、二人目の敵は、鴨居に宙吊りになった刀を放して膝を突く。だがその陰から、稲妻のような突きが由紀之丞を襲った。
かわしきれずに、由紀之丞は左肩を刃で浅く裂かれた。第三の敵は畳み掛けて突いてくる。沙世姫をかばうために、由紀之丞があまり左右に動けないのを見越し、長剣の利を生かしての攻撃だ。先の二人とは違い、沈着で鋭い太刀筋である。由紀之丞の背中に冷汗が流れた。
だが、かさにかかっていた敵が不意にびくりと背中を反らし、苦痛に顔をゆがめて振り返る。首の根元に、太い針に似た鉄の手裏剣が刺さり、着物の襟に血が滲んでいた。敵の後ろ三間の距離には、万阿が唇をきつく結んで立ち、左手に懐剣を構え、右手の指には手裏剣を挟んでいた。おそらく、かんざしに似せて二本、髷に差してあったのだろう。
「ユキ様、御殿に急を知らせました!すぐに助けが参ります!」
万阿がそう叫ぶと、三人目の敵はいきなり、横に飛び、襖を蹴倒して喚く。
「引くぞ!」
その声に、負傷した二人も歯噛みしながら逃走に移った。足を引きずり、切られた手首を押さえて転げるように去っていく。
由紀之丞は荒い息を吐きながら、仁王立ちになったままだ。敵を追う力は残っていない。興奮のためかいまさら恐怖が襲ってきたのか、全身がわなないていた。やがて、敵の足音が聞こえなくなると、由紀之丞はぐらりと倒れ掛かる。その肩を抱え、支えたのは沙世姫だ。
由利江が慌てて万阿に言う。
「由紀之丞どのは手傷を負われています。すぐに医師を!」
「いいえ!それは駄目です。ご対面が済むまでは、何もなかったことに」
強く言い放った由紀之丞だが、唇を噛んで、畳の上に座り込んだ。その肩を支えたまま、沙世姫が言う。
「わたくしのために血を流してくれたのですね、由紀之丞。わたくしが手当てします!」
有無を言わさず、沙世姫は由紀之丞の肩衣を取り、服をはだけ、左肩の傷を剥きだしにさせる。由利江が取り出した白布を受け取ると、沙世姫は傷を強く抑え、血を止めた。
「大丈夫、浅手です。沙世姫様、どうかお放しください。お手が汚れます」
「駄目、動いては!万阿、ぐずぐずしていないで、消毒用の焼酎を持ってきなさい」
間近にかぐわしい沙世姫の香りを感じ、自分の肌に触れる手の柔らかなぬくもりに目もくらむ思いで、由紀之丞は必死に離れようとするが、沙世姫は許さない。由紀之丞は、傷の痛みとこみ上げる甘美な陶酔に耐えながら、沙世姫から目をそらした。
その視線の先に、万阿がいた。手にした針型の手裏剣を髪にもどし、懐剣を鞘にしまいながら、なぜか万阿は、沙世姫と由紀之丞に、鋭く冷たい目を向けていた。由紀之丞はどきりと心臓が鳴った。万阿の目は、まるで自分と沙世姫の「不義密通」を糾弾しているかのように思えたのだ。
ラスト・シュート!(第3回)
投稿者:
Daisy
投稿日:2003年 7月17日(木)00時27分54秒
3.リスタート
(みんなの動きが変わっている)
試合の流れは西浜中に傾きつつあるかに見えた。
雅子の言葉がチームに勢いをもたらしたのは明らかだ。
でも玲はとまどっていた。
(こんな風にサヨコを使うなんて。まだまだ自分のベストを尽くさないうちにサヨコにすがっちゃ。そんなの…いけないんだ)
雅子のやったことにどうしても納得できずにいた。
そのこともあり、流れをつかもうとしているチームの中で調子の出ない自分ひとりがとり残されているような気がしていた。
玲のそんなようすをみてとったか、
「玲、絶対勝つんだからね」
と雅子の檄がとぶ。
その声に励まされ、玲は顔を上げた。
(そうだ、なによりも目の前の相手に勝つことを考えるんだ)
玲はもう一度試合に集中しようとした。
しかし試合は相変わらず苦しい展開を強いられている。点差はなかなか詰まらない。
玲自身もしつこく食い下がるマークのためにずっと自分のプレイが出来ないでいた。
前半に比べて西浜中メンバーの連携や動きは格段に良くなってはいた。
だが、滝川中もそれ以上に動いて対応し、相手を必要以上に勢いづかせることはないのだ。
(やはり、こっちの連携パターンはほとんど研究されている。いや、それ以前に滝川中は相当に基礎からの練習を積んできているみたいだ)
玲はいまや相手のレベルが上回っていることを認めざるを得なかった。
・・・
「玲さん!」
そのパスをだしたのは二年生のメンバーだった。
バシッ
パスを受けた玲はそのボールの勢いに一瞬たじろいだ。
まるでそのボールに後輩の想いがこもっているようだ。
『ここで終わりじゃないですよね。もっともっと玲さんと一緒にバスケやっていたいんです』
彼女がそう訴えているように感じられた。
(・・・パスをしながらみんなと会話をしている・・・)
ボールをまわしながら、いつか沙世子と話し合ったことが思い出される。
そして、あのときのようにみんなが自分の帰ってくるの待っていることが実感された。
その期待に応えたい、このままじゃ終われない−そんな気持ちが湧いてくるのを感じた。
玲は自分の弱気を振り切るように大きく息を吐いた。
(みんな、待たせたね。よーし、あたしはここからだよ!)
もう迷いはなくなった。
「どんどんボールをまわして!」
西浜中のエースは大きな声をかけるとふたたびチームの中に入っていった。
(つづく)
** miyamoさん、「読んだ人が元気になる」というのは、私の投稿する際の「こうありたい」という目標でもあります。どうもありがとうございます。
バスケを描くことについては…えーと、それを含めて、連載終了後にちょっとしたタネ明かしをするつもりです。どうかそれまでお見捨てなきよう。
以上は、新着順71番目から80番目までの記事です。
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