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実在します

 投稿者:龍3  投稿日:2003年 9月12日(金)00時14分31秒
  >miyamoさん
早速のご感想ありがとうございます。
さて解説的に申しますと、「溝口派一刀流の左右転化出身の秘太刀」は実在します。
一刀流は枝分かれした流派が山ほどあり、そのうちの一つで、流祖は溝口新五左衛門正勝。ずっと会津藩だけで伝承されてきた流派だったため、幕末明治の戊辰戦争の混乱の中で断絶の危機に陥り、「左右転化出身の秘太刀」だけが奇跡的に現在まで伝わっているそうです。
で、わし、この流派の存在を知った瞬間、「このわざを溝口に使わせてやろう!」と決意していたのですよ(^^)
 


グレイト!溝口!!

 投稿者:miyamo  投稿日:2003年 9月11日(木)21時24分30秒
  かっこいいです。溝口!かつてこんなかっこよく溝口が描かれたことがあったでしょうか?
(相変わらず、おねえ言葉だけど・・・)
左右転化出身(さゆうてんかでみ)の秘太刀!>これって実在の技?それとも溝口オリジナルなんでしょうか?
最高の盛り上がり、怒濤の連載ペース、さすが龍3様。ラストに向けてますます楽しみです。
 

天守閣の小夜姫つづき

 投稿者:龍3  投稿日:2003年 9月11日(木)13時38分18秒
 
 第九話 恐怖の能舞台(後)
   その三
 振袖をなびかせ、少年のように駆ける鈴の前に、大刀を抜き放った武士が立ちふさがった。裃の肩衣をはねあげ、殺気をみなぎらせたその顔は、飯島典膳だ。
「無礼者!お方様のお言葉に従わぬとあれば、たとえ稚児小姓でも・・・む?お前は、なんと潮田屋の娘か!まずはお前から成敗してくれる!」
 白刃を突きつけられて、恐怖に立ちすくんだ鈴に、典膳は残忍な笑みを浮かべ、刀を大きく振りかぶった。
 由紀之丞は歯を食いしばり、突進する。だが、間に合わない。典膳の刀が閃いた。鈴は大きく目を見開いたまま、逃げることも出来ない。
 その瞬間、つむじ風に似た、赤と黒の入り混じった色彩が、鈴と典膳の間に割って入る。刃と刃が噛み合う激しい金属音がした。典膳は、振り下ろした刀をはねあげられてよろめき、後退する。
 尻餅をついた鈴の前で、大刀を構えているのは溝口左京介だ。黒の着流し姿の裾から、赤い襦袢を覗かせて、泣き出しそうな顔をしている。
「嫌ねえ、あたしに、刀を抜かせたわね。もう、知らないわよっ!」
一瞬ひるんだ典膳は、嘲笑した。
「この間の夜、ぶざまに悲鳴を上げて助けを求めまくった、潮田屋に雇われている浪人ではないか!私に刃向かうなど、笑止!」
「へええ、じゃああんた、あの晩、鈴お嬢さまを斬ろうとした辻斬り強盗の一味だったのね」
溝口の泣き顔は変わらないが、声は落ち着いている。そしてその剣の構えには、尋常でない気迫と力量が籠っているのに、由紀之丞は目を見張った。
「黙れ!」
慌てた典膳が、無造作に斬りかかる一撃を、溝口は体を回転させるようにして鮮やかにかわし、すい、と手にした刀を典膳の首筋すれすれに当てている。身動き取れなくなった典膳の顔面が、冷や汗で濡れた。
「そ、そのわざは、確か・・・会津藩に伝わる、溝口派一刀流、左右転化出身(さゆうてんかでみ)の秘太刀!」
典膳のうめき声に、溝口はさらに顔をしかめる。
「あんた、腕はたいしたことないけど、よく流儀のお勉強はしたのねえ」
 あっけに取られて、典膳と溝口の対決を見守っていた美香の方が、我に帰って叫ぶ。
「ええい!何をいたしておるのじゃ。わが手の者、三崎家の御為を思う者は、はようこの逆臣どもを討ち果たしや!」
 美香の方を取り巻く女中たちがどっと動き、桟敷に置いた長持から、何本もの大刀を取り出す。あちこちから、武士たちが駆け寄って刀を受け取り、抜き放った。その数二十名あまり。数人は、由紀之丞に見覚えのある顔である。加藤の屋敷で、典膳と共に居た侍たちであり、ご対面の後、黒書院で関根佳太夫に斬りかかろうとしていた者達である。そして、そのほかに一人、鋭い身ごなしと凄みのある眼光の男は・・・
(あれは、御守殿で私に突き傷を与えた刺客だ!)

−−−−−
>次元ジプシーさん
お褒めの言葉に、ますます執筆意欲が溢れております。ほんまにおおきに。
それにしても次元ジプシーさんの絢爛たる文体はエキサイティングですね。これで書かれた、本格的な作品を読みたいという欲求は強まるばかりですぞ。今度よろしく。
 
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まってました!

 投稿者:次元ジプシー  投稿日:2003年 9月11日(木)00時55分54秒
  ついに来た!
退屈と倦怠に埋もれた味気ない日常を壮麗無比な悦びと憧憬に染め上げる劇的クライマックスの到来が。
世界が破滅しようとする寸前の、天上界から(あるいは冥府から)吹き寄せる風のような崩壊と喪失の予兆が。
彼方に在ったはずのもの(例えば遠くに夢想されていた憧れとか愛とか革命とか)が、いま突然、目前に在ると云う愕き!
これこそ劇的クライマックスだ。
龍3さん、よくぞ描いてくれました。
また、小生のしがない「プチ謡曲」がいささかなりともお役に立てた事も嬉しいです。
 
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天守閣の小夜姫つづき

 投稿者:龍3  投稿日:2003年 9月10日(水)14時24分28秒
 
  第九話 恐怖の能舞台(後)
    その二
 その時、藩主上総介に近い桟敷から、すっくと立ち上がった小姓がいた。豊かな黒髪を背に流した小柄なその姿は、まっすぐ能舞台を指差し、まだ幼さの残る少女の声で叫んだ。
「嘘だよ!あれは沙世姫さまなんかじゃない!化けの皮を剥がしてやる!」
(鈴!?)
彼女の声に、由紀之丞の体を縛っていた呪縛のようなものが弾けとんだ。脇差を左手で押さえ、由紀之丞は疾走する。恐れはなかった。能面の下の顔を一刻も早く確かめたかった。
 能舞台正面についているキザハシ(装飾的な階段)を駆け上がり、きらめく能装束をつけたシテに、正面から対した。
「卒爾ながら、面を外していただきたく存ずる!」
決然と告げた由紀之丞に、シテは舞をやめ、扇を盾に、わずかに後退する。逃がすまいと迫る由紀之丞の前で、シテの右足が上がり、音を立てて舞台の床を踏んだ。
 瞬間、ぴいん、と金属音が響いたかと思うと、天井からぐわっと炎が噴出し、由紀之丞の頭上を襲う。反射的に身を転がし、灼熱を避けた由紀之丞は、たちまち天井が炎に包まれるのに目を見張る。悲鳴を上げて、ワキや地謡、鼓や笛の囃子方が、舞台から零れ落ちるように逃げ出す。シテだけが落ち着いて足早に橋掛かりを楽屋目指して進んでいく。
「待て!」「ユキ危ない!」
由紀之丞と鈴の声が交錯した。由紀之丞の腰に、鈴の柔らかな手が巻きつき、力任せに引きずる。能舞台の天井が激しくきしみ、焼け落ちてきた。二人は抱き合って床板を転がり、キザハシから白砂の上に落下した。
 鈴を抱えたまま、打撲と煙にむせぶ由紀之丞に、美香の方が叫んでいるのが聞こえる。
「見たか!今の亡霊こそ、沙世姫のまことの姿。火種を持たずして炎を生じさせる、あやしの力を生まれ持った、魔性の姫なのじゃ!」
「何をおおせられる!?」
主君の避難と、消火のために部下を指示し、仁王立ちになっていた関根佳太夫が、怒りの形相で美香の方を振り返る。美香の方は、絢爛たる打掛を翻しながら、傲然と胸を張り、高らかに糾弾した。
「国家老筆頭・関根佳太夫、すべてはその方の邪悪なはかりごとじゃ。おぞましき魔物の姫を三崎家に輿入れさせ、この松次郎をとり殺させた後は、その方の意のままになる世継ぎを立て、さらに専横を図るつもりなのじゃ」
藩士たちは、燃え盛る能舞台に水をかけることも忘れ、美香の方を茫然と見つめる。
「そもそのこの婚礼、津村家からの持参金で三崎家の財政を救うなどとは、うわべだけの口実。藩に入るはずの金で、その方は私腹を肥やし続けたてきたではないか。それは御用商人の潮田屋からせしめた、巨額の賄賂からも明白。皆のもの、この書付を見るがいい」
 美香の方は、側近の千夏から、束にした紙を受け取り、開いてかざす。
「潮田屋が、密かに書き留めておいた、関根家への隠し献金の覚書じゃ。関根と潮田屋は、まさに三崎家にとって逆賊と悪徳商人、すみやかに成敗せねばならぬ!」
 火炎の照り返しを受け、美香の方の勝ち誇った表情は凄艶である。誰もが息を飲み、立ちすくんでいる。
「うそ!うそだよ、そんなの!うちは、ワイロなんて、ぜっっ・・たい贈ったりしない!」
鈴が、絶叫して身をもがき、由紀之丞の腕から脱して、まっしぐらに美香の方に向かって走り出す。
「そんな書付け、あの亡霊と一緒だ、偽ものだ!」
 
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天守閣の小夜姫つづき

 投稿者:龍3  投稿日:2003年 9月 9日(火)15時32分37秒
 
   第九話 恐怖の能舞台(後)
     その一
 驚き騒ぐ藩士や女中たちの上に、藩主・上総介の大音声が降り注ぐ。
「静まれ、何者かは知らぬが、面白い余興じゃ。最後まで見ようではないか!」
 その一言に、やんでいた鼓や笛の音が復活し、舞台の上は立ち直る。立ち上がっていた桟敷の観客たちも座り始める中、井筒の後シテ衣装をまとった者は、懐から何かを取り出して、ワキの役者に投げた。古ぼけた謡本である。どうやら、それを見ながら、相手を務めろと促しているらしい。
 ワキの役者は、震える手で謡本を開くと、意を決して読みあげ始めた。
「こ、これぞ西浜城に隠れもなき、栄耀栄華の証たるご天守。
さても、都の地より、美わしき姫君、無垢なる花嫁として来たりしぞ。
遙ばるおいで賜りしからは、遙ばる行列なし来られしからは、幾久しくえにしを契りぬるかな」
 シテは、歓喜と怨嗟の混じった声で応える。
「われもまた、数えもあえぬその昔、この西浜城へ嫁ぎ来たりし乙女なり。いまここに語る言の葉は、ことごとくわが恨みの声にて候ぞ」
 ワキは、恐怖にわななきつつ、謡を続ける。調子は狂い、棒読みになっているが、言葉ははっきりと観衆の耳に届いた。
「こ、この白昼に、恐れもなく現れいでたる、そのあやしの声は誰ならん」
「われこそは、さる日、さる時、西浜城の主より、新妻と選ばれ候し乙女。
そのおりの嬉しさはさりながら、愛執の果てに憧れの頂より突き落とされ、かくは魂魄となりて見捨てられし胸の裡はいかばかりの悔しさぞや」
「な、汝は、いにしえの、言い伝えの乙女なりと仰せしか、忌まわしき言い伝えの乙女なりと仰せしか」
「禍つひあまたな闇路をわけて来たからは、朧なる春の日の光に照らされし、この死を孕みたる天守閣を見候らえ。さらには、想いおこされよ、民の恐れの囁きを、駕籠に受けつつ城に入りし、われの名を」
「な、何と、ご天守に刻まれし、災い人の名は、紛うもなき、さよ姫に候、紛うもなき花嫁が名なりけり。げにもくすしき運命(さだめ)なるかな。
かくて、ご、ご天守・ご本丸は冥府魔界と転じせしか」
「あな冥府の風吹きそめたり、冥府の風ぞ吹きそめたり」
シテは、五彩の扇を広げて舞い始め、鼓、太鼓は乱打され、狂ったように笛の音も吹き鳴らされる。
「あれは、沙世姫様か!」
「やはり沙世姫様は、おさよの化身」
「災いを引き連れてやってきたのだ!」
再び騒然と藩士たちは叫び始め、女中たちは悲鳴を上げて桟敷の上であとじさった。

(☆今回の文中の「能」は、次元ジプシーさんの「プチ謡曲『魔界転校』をもとにしております。快く使用許可してくださった次元ジプシーさんに感謝)
 

天守閣の小夜姫つづき

 投稿者:龍3  投稿日:2003年 9月 9日(火)01時35分5秒
    恐怖の能舞台(前)
    その六
 舞台ではちょうど、「敦盛」の前半が終わるところである。
「・・・あら有難やわが名をば 申さずとても明け暮れに
向かいて回向し給える その名を御覧候えと
かき消すようにうせにけり かき消すようにうせにけり」
 前シテが退場し、中入りとなって、客席には弛緩した空気が流れた。この機会を外してはならぬと、由紀之丞は白砂を蹴って足早に進み、主賓の座す桟敷に達した。
「沙世姫様・・・が、おられぬ?!」
 桟敷に、沙世姫の姿がないことに由紀之丞と黒川は戸惑う。由紀之丞は同僚の袖を捉えて聞きただした。
「ああ、敦盛が始まって程なく、中座されましたな。おそらく、はばかりへ参られて衣装替えなどもなさるのでしょう」
小声で教えてくれた同僚に礼を言うと、由紀之丞は黒川に耳打ちする。
「どうやら、御守殿に行かれているようです。もっけの幸いです、われらもそちらへ赴いて、姫様とお話を・・・」
 その時、ざわめいていた観客が舞台に注目し始めた。どうやら中入りが終わり、敦盛の後半が始まるらしい。
「急ぎましょう、御守殿へ」
由紀之丞が黒川をせかす。だが、黒川は舞台を見つめて突っ立ったままだ。
「おい・・・ユキ、妙だぞ。今出てきた後シテ(後半部の主人公)は敦盛の衣装じゃないぞ・・・あれは、井筒の後シテだ」
黒川の抱いた疑問は、能に素養のある者には共通の驚きだったらしい。そこかしこでいぶかしげな囁きが始まった。
「淡路がた 通う千鳥の声ききて
幾夜寝覚めぬ 須磨の関守は誰ぞ」
後シテの声が響いたとき、観客全員に驚きが走る。その声は、能役者にあるはずのない、若い女の艶やかな声だったのだ。
 相手役を務めるワキの役者も仰天したらしく、目を見張り絶句したが、かろうじて演技を続けようとする。
「・・・ふ、不思議や・・・敦盛の来り給うぞや
これは夢にてあるやらん」
井筒の後シテは、若い女の面を付けながら、衣装は在原業平の形見をまとったという想定で、直衣(のうし)に冠を着けた男装である。男の姿をした美しい女は、まさにそれにふさわしい凛とした声で謡う。
「何しに夢にてあるべきぞ
うつつの因果を果たさんために
これまで現れ来りけり」
 桟敷を埋める観客たちに、激しい動揺の波が走った。悲鳴に近い叫びが、同時にいくつも挙がった。
「おさよだ!」「おさよが舞台に」「おさよの亡霊が!」

 
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天守閣の小夜姫つづき

 投稿者:龍3  投稿日:2003年 9月 5日(金)01時39分34秒
 
 恐怖の能舞台(前)
   その五
 確かに、典膳の構えから噴き出る闘気は、前のときとは比べ物にならない激しさだ。加えて、由紀之丞の得意とする居合は、長い刀を迅速に抜きうつことに利があるのに、由紀之丞の得物は脇差である。おのれの優勢を確信して、典膳はじりじりと間合いを詰めてくる。
 勝機は一瞬だと、由紀之丞は覚悟している。典膳が自分の間合いに入り、攻撃を仕掛けてくる寸前に、一気に前に出て先手を取るのだ。気迫を込めた眼光がぶつかり合い、典膳と由紀之丞の額には汗が噴出す。
 その緊迫感に耐え切れなくなったのか、不意に黒川が震える声でわめいた。
「誰か、誰か止めてくれ!城内で刀を抜いた狼藉者がここに!」
 張り詰めていた典膳と由紀之丞の間の空気が破れたその瞬間、典膳が大刀を振りかぶって袈裟切りを放ち、由紀之丞は脇差を横一文字に抜きうった。典膳が振りかぶる僅かな時間に、由紀之丞の足は大地を蹴り、驚くべき跳躍で典膳の懐に飛び込んでいた。脇差が典膳の左脇腹に吸い込まれる。
 だが、由紀之丞の手には、堅い物体に切りつけた異様な手応えが伝わった。由紀之丞の一撃は、典膳が腰に差している脇差の柄に阻まれてしまったのだ。渾身の抜きうちを失敗し、由紀之丞の体勢が崩れた。振り向きざまに典膳の大刀がきらめいた。由紀之丞の左肩に、大刀が食い込んだ。由紀之丞はうつぶせに地面に叩きつけられた。
「ユキ!!」
絶叫して黒川が駆け寄り、由紀之丞の背に覆いかぶさる。
「やめてくれ!ユキは私の教え子だ。飯島、おぬしだって、そうじゃないか!」
 黒川の何度かの叫びが届いたのか、人の足音と声が近づいてきている。典膳は顔をゆがめ、刀を鞘に戻しながら、去ろうとする。だが、なぜかうまく刀身が入らないようだ。舌打ちして抜き身のまま持ち、駆けていった。

「ユキ!しっかりしろ!誰か、手を貸してくれ、医者のところへ!」
取り乱しながら黒川は由紀之丞を抱え起こす。その顔が不審そうに眉をひそめる。
「うん?傷は?傷が・・・ない?」
「いててて・・・先生、苦しいです。手を離してください」
痛みに歪んではいるが、由紀之丞の顔色は生気に溢れている。黒川は呆然とした。
「なぜだ、あんなに見事に斬られたように見えたのに」
「間合いが近すぎて、典膳の刀は、物打ち(切っ先より少し下の、最も切りやすい部分)より随分下で私の肩をまっすぐ打ったのです。だから、刃(やいば)が働かず、棒で殴ったようなことになった。やつの刀は、曲がって鞘に納まらなかったでしょう」
 打撲痛に肩を抑えながら、由紀之丞は立ち上がった。集まりかけている人の気配を避けて、黒川を引っ張る。
「今は、早く、沙世姫様のもとへ行かなければ!」
 

天守閣の小夜姫つづき

 投稿者:龍3  投稿日:2003年 9月 2日(火)23時48分13秒
 
 恐怖の能舞台(前)
   その四
「沙世姫様の、秘められた力・・・」
由紀之丞の脳裏に、姫自身から聞かされた話が蘇る。念ずるだけで炎を生じさせ、津村家江戸屋敷を焼き尽くしかけたという力。
「詳しく説明している暇がない。だが、信じてくれ!」
「信じます。なれど、上演をやめさせるのは出来かねます・・・そうだ、沙世姫様に言上して、御自ら中座していただければ」
すがり付いてくる黒川の背を抱え、由紀之丞は二・三歩進み始めた。だが、響いてきた低い声に、その歩みは凍った。
「面白い話だな、黒川どの。だが正気で喋っておられるとは思えぬ」
築地塀のそばに茂る矢竹の陰から、ゆらりと長身の男が現れた。肩衣をつけ、登城している他の藩士と変わらぬ姿の飯島典膳である。熨斗目の効いた整った衣服を着けてはいるがすさんで凶暴な雰囲気は隠せない。さらに彼は、城内では携帯を許されない大刀を、脇差に並べて腰に差している。
「あなた方は、加藤様と一緒に謹慎を命じられているはずではありませぬか」
とがめる由紀之丞の声を、典膳は平然と聞き流し、黒川に向かって嘲った。
「沙世姫様の素性をあばくのに、黒川どのの学問を役立てようというのが、われらの意向ではあった。だが、もうそんなことはどうでもよいのだよ」
 由紀之丞は愕然として黒川の顔を見る。青ざめた黒川は、がっくりと膝を突く。
「黒川先生・・・まさか先生は・・・敵の回し者?」
典膳が高く笑った。
「藩校教授と申せば聞こえはいいが、俸禄は足軽に毛が生えた程度と聞く。金目当てでわが方に付いた黒川どのは、間者として関根方の内情をいろいろと漏らしてくれていたよ。江戸からの文の中身もな」
「わ、私は、ただ・・・」
黒川はいかつい顔を泣きそうにゆがめ、うつむいて声を絞り出した。
「もっと、学問を深めたかったのだ。出来れば長崎へ、せめて江戸へ行きたかった。だが、藩はそれを許してくれぬ。脱藩して行こうにも、路銀すらないのだ私には。美香の方様や江戸の加藤どのの味方をすれば、藩の費用で留学をさせてもらえるとの約束だ」
 歯を食いしばり、由紀之丞は、黒川のからだを突き放す。よろめき、倒れた黒川は、無様に身をよじりながら叫んだ。
「そうだ、私は、卑劣な裏切り者だ、ユキ、さげすむがいい。けれど、さっき言ったことはまことだ。沙世姫様に、能楽を見せては、聞かせてはならぬ!私の学者としての命を賭けて、これは本当のことなのだ!」
「今、騒ぎ立てられては困るのだよ、黒川どの」
典膳が、刀を抜いた。無造作に距離を縮めて、黒川を斬ろうとしている。咄嗟に由紀之丞は黒川を突き飛ばし、脇差の柄に右手を添えて典膳に立ち塞がった。
「ほう・・・裏切り者をかばうか。由紀之丞、なんと愚かな。この前の腕試しのようには行かぬぞ」
典膳は舌なめずりするような表情で、大刀を青眼に構えた。
−−−−−
随分間が開いてしまいましたが、これから頑張ってクライマックスを描きますのでよろしく。

>矢吹葵さん
ぜひDVDを買って、長く愛視聴してください。また感想など語り合いましょう。
 
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楽しかったです。

 投稿者:矢吹葵  投稿日:2003年 8月25日(月)10時36分22秒
  とても楽しかったです。再放送もかかさず見ていました。DVDとかも買いたいと思っています。  
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